アナスタシア「Сириус」 後編


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164: ◆Tw7kfjMAJk:2017/04/19(水) 21:11:04.78 :nhXCd10e0

第九話「ともだち」


165: ◆Tw7kfjMAJk:2017/04/19(水) 21:11:33.48 :nhXCd10e0

アナスタシアは加蓮とのライブバトルに敗北した。
しかし――皮肉なことではあるが――僕が最初考えていたようにアナスタシアの知名度はさらに上がる結果となった。

ただ、もし最初考えていたように『負けてもいい』といった姿勢で挑んだならばこうはならなかっただろう。
今回の加蓮のステージは僕が想定していたものを遥かに超えたステージだった。まさに凄絶。歴史に残るステージだったと言っても過言ではないだろう。
あのライブバトルの翌日から、世間は加蓮の話題で持ち切りだった。どこへ行ってもあのステージの話を聞いた。日本中が加蓮に心を動かされていた。
話題のほとんどが加蓮のステージに関するものではあったが、アナスタシアのステージが取り上げられることもあった。
ある人曰く、

『今回の北条さんはたとえ相手が渋谷さんであったとしても勝利を収めたことでしょう。そんなステージを見せた北条さんに対して、あそこまでのステージができたことは素晴らしいし、これで新人だと言うのだから恐ろしい。これからの彼女に期待したいですね』

とのことだ。
もしアナスタシアが中途半端なステージを見せたならば、彼女は話題にもならなかっただろうし、あるいは無様な姿を見せたとまで言われたかもしれない。
もちろん、彼女がそんな姿を見せるとは思えないが......僕のせいでそうなっていた可能性すらあったと考えると恐ろしい。

それ以外にも変わったことはいくつかある。

まず、アナスタシア。加蓮とのライブバトルで彼女が得たものは多かった。
加蓮のステージから得たもの、渋谷さんとのレッスンから得たもの......そして、敗北から得たもの。

加蓮のステージを見て、アナスタシアは少し変わった。
あれ以降、彼女が『Never say never』を歌うことはなかったが、『You’re stars shine on me』を歌う機会は何度かあった。
その歌い方が、明らかに変わってきていたのだ。それも、毎回のように。
それが良く働くこともあったが、悪く働くこともあった。
しかし、これに関して僕は手を出さず、アナスタシアに任せることにした。

また、渋谷さんとのレッスンを経験した結果、アナスタシアのレッスンは大きく変わった。
レッスンに対する意識が変わったし、レッスンの質が変わった。量も変わったが......これに関しては、ルキちゃんがアナスタシアの希望を許さなかった。
アナスタシアは渋谷さんのレッスンを基準にレッスン量を変えようとしていたようだが、今のアナスタシアでも渋谷さんと同じレッスンはできないだろう。
今でもやっているアイドルはいるのだから、将来的に見れば不可能ではないと思うが......そうなった場合、ルキちゃんがどんな顔をするかは楽しみでもある。

加蓮とのライブバトルを経験したこととレッスンを変えたことによってアナスタシアは飛躍的なまでに成長した。今なおそれは止まらない。
『You’re stars shine on me』が毎回のように変わっているのもその一環だろう。
どうすればより良くなるのかを常に考えて努力している。

そしてそれは、加蓮とのライブバトルに敗北したことも原因の一つだろう。
今回の加蓮のステージは確かに驚異的なものだった。
あのステージを超えることは『トップアイドル』と呼ばれる存在であっても難しいだろう。

だが、だからと言って敗北の悔しさが紛れるわけはない。負けは負けだ。
アナスタシアは、北条加蓮に敗北した。
それが事実だ。それ以上でもそれ以下でもない。

だから、悔しいのだ。
だから、負けたくないと思うのだ。
だから、だから、だからこそ......二度と負けないと誓うのだ。

二度と負けないように、努力するのだ。

ライブバトルは名前通り『バトル』だ。戦いだ。必ず勝ち負けが発生する。勝者と敗者が存在する。
勝つために努力して、努力して、努力して、努力して......そして、負ける。
その悔しさは、僕では理解できない。敗北は辛く苦しい。僕には、それだけしかわからない。
だが、アナスタシアのあんな顔は......負けたと決まった時のあんな顔は、二度と見たくない。
アナスタシアは言った。

「私を応援してくれたファンに......プロデューサーに、申し訳ない、です」

......あんな顔は、二度とさせたくない。
あんな顔は、二度とさせない。

アナスタシアは二度と負けないために努力している。自分を応援しているファンの期待に、今度こそ、裏切らないように。努力して、ぐんぐんとその力を伸ばしている。
ファンのために。そして、『負けたくない』という純粋な気持ちのために。
アナスタシアは、努力している。

――と言っても、最近のアナスタシアは僕から見ても根を詰めすぎだとは思う。
ルキちゃんにも言われているし、ちゃんと休むように言っておこう。

そして。
その間に、僕は私のするべきことをしよう。


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