【モバマス】速水奏「夜の舞踏」


1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/10(月) 00:03:33.52 ID:dkslvbuh0


夜が好きだった。

葉が落ちて、すっかり寂しくなったモミジの木も、ぽつぽつと地面を叩く小雨の音も、私は好きだった。

夜は暗くて怖いものだという人もいるが私にとっては全く別で。

夜は私を包んでくれた。モミジも雨も夜の闇も何も言ってこない。静かで優しい世界。

夜の暗闇の中でこそ私は自由に生きられる気がしていた。


2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/10(月) 00:09:09.97 ID:dkslvbuh0


コンビニでコーヒーとチョコを買い、自宅へ戻る途中、急に雨足が強くなった。
戻って傘を買おうかと少し考えたけど、店員さんの機械のような動きをもう一度見ると、
せっかくの夜が台無しになってしまう気がして、結局濡れて帰ることにした。

走ることもせず、私はゆっくりと夜の雨に打たれた。
髪、服、身体。冷たい雨は私のいたるところに降り注ぎ、たちまち私を濡らしていく。

目を瞑ると、夜の雨は私の不安・疲れ・退屈などの湿った感情を綺麗に流してくれる気がした。
まるで暑いシャワーを浴びているような安心感のある雨だった。私はただただ濡れ続けた。

「大丈夫か?」

ずぶ濡れの住宅街に声が低く響いた。

目を開けると、私より年上の、20代から30代前半くらいに見える男が傘を差しながら、私の方へと歩いてくるのが映った。


3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/10(月) 00:13:32.98 ID:dkslvbuh0

「家は?」と男が尋ねた。左手で傘を差し、右手には吸いかけの煙草が挟まっていて、おぼろげに煙を醸していた。

「すぐ近くよ」と私はそっけなく答えた。

「そうか」と男は言うと、煙草を地面に落とし、傘を畳み、両手で丁寧に傘を私に差し出した。
落ちた煙草はあっけなく灯を消し、男はまたたくまに雨粒に湿っていく。

「大丈夫。本当に近くだから」と私が男の傘を拒むと、男は

「仕事柄、女の子を見ると大切に扱ってしまうんだ」と表情を緩めた。

私は男の様子をじっと観察した。
黒のダウンジャケットに細めのジーンズは仕事のときに着る服装ではなさそうだったけれど、
私にはこの男がホストとかそういった類の人ではないように思えた。

ホストにしてはシンプルすぎる普段着だし、
あたたかいのと冷たいのが混ざった、降り始めの雨のような匂いがこの男は安心だと告げていた。


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