1 :1 :2014/10/10(金) 23:05:14.55 :M6pjPsFx0

・アイマスSSです。
・地の文あります。 もりもりです。
・響お誕生日おめでとう!!!

ではよろしくお願いします。


2 :1 :2014/10/10(金) 23:06:03.66 :M6pjPsFx0

アイドル活動も順風満帆。 仕事の合間にプロデューサーに無理を言って、車を出してもらった。
裁縫用の布や糸が不足してたのを思い出して、栄えた商店街の出口の方にある、足繁く通っている手芸用品店に顔を出してみた。
良く来るだけあって、ここの品揃えは他とは違い、色や布地は勿論、裁縫道具の種類も並じゃない。
客の人数が、この店の人気を何よりも語っていた。

「えーっと…………」

こう物が多いと、買わなきゃいけない素材は解ってるのに目移りしてしまう。
「こんな布地あったっけ」、「新しい裁縫道具入荷してる」なんて、誰も聞いてない独り言を漏らす。

「何か、お求めでしょうか」

店員がやたら早口で話しかけてくる。 求めてるものは既に決まっているというのに。

「あ、大丈夫です」

店員はペコリと会釈すると、「じゃあフラフラすんなよ」という本音を含めた笑みで陳列に戻っていく。
何もイラつくほど気を遣わなくていいのに。


3 :1 :2014/10/10(金) 23:07:19.23 :M6pjPsFx0

興が削がれて時計を一瞥、店員のコンタクトを計ってきた行動は正解だったかもしれない。
お陰で時間が押してることに気付けた。 今頃プロデューサーは車の中でハンドルを指先で叩いている頃だろう。
矢継ぎ早に必要なものだけ抱えてレジへ持っていくついで、何の気無しに外の様子を窺った。

特に意味の無い行動だった、レジに商品を持っていくのに歩くだけでは退屈だろうと目を動かしただけだった。

ショーケースの向こう、一人の女の子がへばり付くように、飾られていた衣装を眺めていた。
それはまるで、舞踏会へと駿馬を走らせるシンデレラを見るかのような眼差しだった。

「あの子……」

柄の無いワンピースを着た六歳くらいだろうか、その少女はこちらの視線に気付きはしない。
あの場所一帯だけ時が止まっているのでは、と錯覚するほどに視線は衣装に釘付けだ。


4 :1 :2014/10/10(金) 23:08:51.04 :M6pjPsFx0

「……………………」

何故だか気になってしまって、買い物を済ませてすぐに外へ出た。
腕時計で時間を確認。 余裕は無いが、少し言葉を交わすだけだ。
緊張する。 下手をすれば不審者扱いになってしまうし、逃げられてしまうかもしれない。
それでも、それでも。 と思ってしまうのは何故だろうか、ただ話しかけてみたいだけだと言うのに。

「…………ねぇ、きみ」

しゃがんで目線を平行に。 怖がらせない為に視線を平行にするのは、動物も同じだ。
ガラスにへばりついていた少女は一度だけ肩を震わせると慌てて振り向いた。

「………………な、なに?」

店員が注意しに来たと勘違いしてるのか、単にいきなり声を掛けられたことに警戒しているのか、
おそるおそる振り返る様は、とても一桁台の齢である少女には見えなかった。

そして、近づいて少女の全体像が解る。
遠目で見た時は柄の無い、地味なワンピースだなと思っていたのだが、大分素材も簡素な物のようだ。
どこにでもある、キッズ用のノースリーブのワンピースに、サンダルを履いた普通の女の子。
しかし一つだけ、あまりにも地味すぎるのが気になった。


5 :1 :2014/10/10(金) 23:09:23.11 :M6pjPsFx0

「どうしてずっと見てるのかなぁって」

ずっと見てる所を見られているほどずっと見ていたのか、とクリクリした瞳をより大きく見開く。

「え、おねえさんずっと見てたの!?」

「いやいや、さっきお店の中でチラッとね」

少女は一度大きく後ずさりすると、とてつもなく汚いフォームで踵を返した。

「あ、ちょっ……!! ちょっと!?」

追いかけようにも、荷物で手は塞がっているし時間に余裕も無い。
雑踏犇く中、人と人を縫うように走るような器用なことも出来ず、時々転びそうになりながらも走り去っていく少女を、
ただ「怪我しませんように」、と少女に向かって祈る事しか出来なかった。


6 :1 :2014/10/10(金) 23:10:18.05 :M6pjPsFx0

・ ・ ・ ・ ・


それから数日が経ったときの事だろうか。
襟元を通り抜けるそぞろ寒い隙間風に悩まされるようになり、
セーターでも一着編もうかと毛糸を買いに、いつもの店の扉を潜った。

「今日もあの子居るのかな…………」

店に入った後に思い出し、外を見てみるとそこには前と同じようにショーケースに張り付く少女がそこに居た。
先日と同じワンピースを着ているように見える、気のせいだろうか。
変わらず少女はこちらに気付いてはいない、早急に買い物を済ませ紙袋をカサカサと鳴らす。

「……こんにちはっ」

昨日ほどではないにしろ、肩を一度震わせて少女が振り返る。
自分の顔を認識すると、良く解らないファイティングポーズを取った。
たった一日で「逃げる」から「立ち向かう」へと、目覚しい進化を遂げている。


7 :1 :2014/10/10(金) 23:11:47.01 :M6pjPsFx0

「あはは、そんなに怖がらないで欲しいかな。 自分はただ君とお話したいだけなんだ」

少女は依然警戒を解かず、顔を強張らせている。

「おはなしすることは、ないです!」

実に教育の行き届いた子だ、取り付く島も無い。

このまま手を拱いているわけにもいかない、どうにかしてコミュニケーションを計ろう。
そう思った矢先。

「…………どうかした?」

少女の向けている視線を追いかけると、自分の持っている紙袋を注視しているようだ。
注がれる視線には、羨望とも取れる感情が入り混じっているように見える。

「……………………それ」

どうやら気になるらしい。 だが、先程までショーケースに張り付いていた、という行動を見るに、
少女はこの紙袋の中に服が入っていると勘違いしているのではないか。


8 :1 :2014/10/10(金) 23:12:23.17 :M6pjPsFx0

期待を裏切るようで悪いが、このままひた隠しにしても少女に申し訳無い。
紙袋から布や糸を取り出して、良く見えるように少女に突き出す。

「これ?」

期待に満ちた瞳はあっという間に失望を帯び、握り締めていた両手は力なく下ろされた。
予想はしていたが、そこまで意気消沈されると正直悲しみを覚えてしまう。
少女にはただの布と糸にしか見えないだろうが、これが色んな装飾物になるという事を教えなければならない。

「……これはね? 布と糸なんだけど、自分これで服を作ろうって思うんだ」

「ふく?」

「うん、そうだな~……。 これから寒くなるし、セーターなんて良いんじゃないかな」

セーターの場合、買った布の使い道が無くなってしまうが、それはまた別の物に活用すれば良い。

「…………そんなんで作れるの?」

中々良い表情だ。 馬鹿にしたような顔で訝しげに質問してくる少女に、苦笑しながらも答える。
子どもというのは実に正直だ、毒気が抜かれるような感覚に陥る。


9 :1 :2014/10/10(金) 23:13:23.55 :M6pjPsFx0

「もちろん!! この糸を何本も何本も一緒にしたら、どんどん広がって服になっていくんさー!!」

自信満々に答えると、その言葉に嘘偽り無い事を感じ取ったのか目の色を変えた。

「……………………すごーい!!」

感嘆の声と共に少女は口元を綻ばせた。 そうか、この少女はこんな顔で笑うのか。
とても先程まで柳眉を上げていた少女とは思えないほどの、柔らかい笑みだった。

「………………君は、どうしてここでずっと、ショーケースを眺めていたの?」

仲良くなれた頃合を見て、少しだけ少女の内側へと踏み込む。
「ショーケース」という単語が解らなかったのか、頭に疑問符を乗せる少女だったが、
自分の視線の方向を伝う事によって、直に理解した。

「あ………………」


10 :1 :2014/10/10(金) 23:14:23.94 :M6pjPsFx0

「…………………………どうかした?」

少女はもじもじと、両手を合わせて何やら言いにくそうにしている。
もう一度少女が口を開くまでそれほどの時間は無かった。

「………………えっとね?」

「…………あーのおうちお金ないから、買えないからみてたの」

俯く少女の顔色は、少しばかりの恥じらいと憂いを帯びていた。
貧しさを恥と、そう理解しているような表情だった。

「あー」、というのは名前だろうか。 友達や親に呼ばれている愛称と推測する事にする。
成る程、ようやく理由が解った。 何故この少女が出入りの多い商店街にたった一人でここに佇み、
灰かぶり姫が行けぬ舞踏会に想いを馳せるかのようにショーケースを眺めていたのか。


11 :1 :2014/10/10(金) 23:15:10.00 :M6pjPsFx0

この少女は、見ることで自分を満足させようと。
好きなように欲しい物を求める事の出来ない、貧しい家に生まれた自分に、
心の中ではドレスに身を包んで、舞踏会へ行っても恥ずかしくない姿になったと錯覚させているのだ。
自分がお洒落を出来ない代わりに。
先程言いよどんだのも、からかわれるのを恐れての事だろう。

周りに母親らしき人物も見当たらない。 たった一人で、そのちっぽけな満足の為に小さな足を鳴らしてここまで来ているんだ。
良く見ると、サンダルも大分薄汚れていた。 家から遠い場所なのだろう。

憐れみでは、同情では無かった。
ただこの少女に、少しばかりの労いをしてあげたかっただけだ。
女の子がこんな悲しみに顔を歪ませるのは、許されない事だと思っただけだ。


12 :1 :2014/10/10(金) 23:16:13.30 :M6pjPsFx0

「…………ねぇ、服作ってあげよっか」

「…………え?」

顔を上げた少女は、自分の言った事が理解出来ないと言ったような顔で見つめてきた。
見ず知らずの人間に、自らの恥部をさらけ出した恐怖に支配されているようにも見える。

「……買えない、んだよね、服。 だから作ってあげようか」

「…………ホント!? あ…………、でも」

「…………どうかした?」

「お金………………」

どれだけこの少女は、この齢で自らの立場を理解しているのだろうか。
信じて無邪気に飛び回りながら喜べば良い話ではないか。
こうなる運命にしてしまった神にすら恨み言を言ってやりたい気持ちだ。


13 :1 :2014/10/10(金) 23:16:53.70 :M6pjPsFx0

「そんなの要らない。 ただ自分が、プレゼントしてあげたいだけ」

他者から見れば、自分のこの行いは憐れみから出た物に見えるだろう。

「………………ホント? ホントにホント?」

「ホントにホント」

「……………………!! ほしい、つくってほしい!!」

見えるだけであって本質はどうだろうか。
自分は、この少女に対して憐憫の情なんてもの、これっぽっちも抱いてはいない。


14 :1 :2014/10/10(金) 23:17:29.65 :M6pjPsFx0

「そっか! じゃあ、どんなの作って欲しい? あ、ドレスとかは流石に無理かなぁ」

「えっと…………。 さっきおねえちゃんが言ってたの」

「え、セーター?」

「それ!」

「えぇぇ………………」

「だめなの?」

「いや、ダメじゃないけど。 毛糸編んだだけの服だぞ? 地味だし、可愛くないし」

「それがいい!!」

少女の意志は、言葉の端々からも伝わるように強く、
とても「けど」、と反論する余地も無かった。

「…………解った、じゃあセーター作ったげる!!」

こうなったらこっちから折れるしかあるまい、参ったと言わんばかりに一度笑うと、
返すかのように少女は、口の両端に笑窪を作った。


15 :1 :2014/10/10(金) 23:18:18.71 :M6pjPsFx0