1: ◆yufVJNsZ3s 2018/02/11(日) 00:37:35.82 ID:EG40ecTM0

あるいは、トラック泊地再興記

長編予定。独自設定あり。地の文あり。
過去にエタったやつの再挑戦です。


2: ◆yufVJNsZ3s 2018/02/11(日) 00:38:00.16 ID:EG40ecTM0


喧噪が確かにあった。夏のそれではない、人工的なそれが。

門の前のシュプレヒコールは止まらない。

年端もいかない少女を戦地へ連れて行くな。人体実験反対。深海棲艦にも人権を。生物多様性の保護に努めろ。一般市民への安全確保が急務。よくもまぁ次から次へとお題目が出てくるものだと、辟易を通り越して関心すらしてしまう。

俺は少しだけ開いていた磨りガラスを完全に締め切った。それだけで騒々しさはなりを潜め、ようやく手元の紙切れに視線を向けることができるようになる。

呉を離れること。
トラックに向かうこと。

受け取った辞令には、ただそれだけが書かれていた。それが一般的な書式なのかどうかを俺は知らない。記憶を掘り起こせば所属決定の通達も、このような血の通っていない文章だった気もするので、公的書類とはかくあるものなのだろう。


3: ◆yufVJNsZ3s 2018/02/11(日) 00:38:38.69 ID:EG40ecTM0


俺に辞令を渡したのは事務方の偉いお役人。店先に立っている陶器のたぬきに張り出した腹が似ていたなぁ、とぼんやり思う。

A4のコピー用紙が狸親父の手から俺の手に渡ったとき、確かにやつはほっとした表情を見せた。弛緩。心がゆるんだが故の、体のゆるみ。

厄介者をようやく追い出すことができたと、張り詰めていたものが途切れたに違いない。
色々なものを通り越して腹立たしさすら忘れかけてしまいそうだ。そもそもトラックは、冬の深海棲艦の襲撃で壊滅状態にあるのではなかったのか。

窓際送りですらない島送り。死刑宣告にも等しい。
となると俺が一気に士官へ特進したのも、殉職の先取りなのかもしれなかった。

くそ。

いっそのこと燃やしてしまおうかとも思うが、今更、だからなんだというのだ。俺に残された道はただ二つ、軍人として海の向こうへ渡るか、市民として遠い地でひっそり暮らすか。