七尾百合子「プリムラの花に、言の葉を乗せて」


2: ◆TDuorh6/aM 2017/09/18(月) 20:00:10.27 ID:6BNrNmyXO





魔法を使うって、ズルをする事なのかもしれません。

空を飛べるって事は、本来歩かなきゃいけないところを歩かずに済みますし。
時間を止められるって事は、他の人達よりも多くの時間を手に入れられますし。
未来を視れるって事は、他の人達より先に何かを知る事が出来ますし。
願ったことを叶えられるって事は、本来必要な努力をせずに済みますし。

だから、私が願った事が叶ったとして。
それ相応の罰があるのも、当然の事で。

それでも、私は。

どうしても、口にする事が出来なかったから......




3: ◆TDuorh6/aM 2017/09/18(月) 20:01:07.97 ID:6BNrNmyXO





はぁ......今日も言えなかったな......

トボトボと足を動かしながら、私は自宅を目指していました。
既に十二月を迎えた日本の夕方は、コートなしでは過ごせないほど冷たい風が吹き続けています。
でもそれ以上に冷え切っているのは、私の心のせいで。
伸びていく影は私を置いていくみたいに、どんどん勝手に先に行ってしまいます。

事務所でのやりとりは、いつも通りありふれた会話。
せっかく二人きりになれた時は、緊張しちゃって全然喋れなくて。
他の女の子達と楽しそうに話している姿を見て、他の女の子達の事を楽しそうに話す貴方を見て。
心が締め付けられるのに、言葉に出す事は出来なくて。

貴方の事が、好きです。

たったそれだけの、文字にしちゃえば十文字程度にしかならない短い言葉なのに。
私はずっと、言い出せずに。
今日もまたいつもと同じ道を歩いて、一人で家に向かって。
何もないままさよならを言って、もどかしいまま不安を募らせます。

名前を呼ばれるだけで嬉しいから。
毎日会えるだけで充分だから。
瞳が合うだけで幸せだから。
今の関係が壊れてしまうのが怖いから。

言い訳を並べて、涙を堪えます。

きっと、今日もまたあの人の事を夢に見るのに。
夢の中でなら伝えられるのに。
現実の私は、怖くて言い出せずに。
あの人と私の距離はかわらないまま、恋の花が咲く日は訪れない。
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