鷺沢文香の元いた古書堂の常連の話


1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/09/14(木) 01:02:49.51 :21UZx+iqO

彼女はいつも、古書堂の奥で、静かに本を読んでいた。
本に囲まれて、橙色の暖かいライトに照らされながら、分厚い本の印字が詰まった薄い一ページを捲る。
心配するくらいに無愛想で、それでも許される程に美しいその子は、明確に自分の世界を作り上げていた。
僕にはその中に入っていく勇気は無かったし、多分それは正しかったんだと思う。

僕は彼女の名前を知らない。

眺めるだけの好きの形でも、いいじゃないか。


2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/09/14(木) 01:03:22.13 :21UZx+iqO

文章を読むのが好きなわけではない、本という媒体が好きなだけだった。
その本が、古ぼけていれば古ぼけているほどよかった。前の持ち主の痕跡が見える程度に「使い込まれて」いれば尚よい。


4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/09/14(木) 01:04:53.34 :21UZx+iqO

ただ汚い本を探すのなら、チェーンの古本屋に行けば良い。ただそれじゃあダメなのだ。
そうやって好みの本を探すうちに、あの古書堂に辿り着いた。まさか同じ街にあるなんて、思ってもなかった。
「いらっしゃいませ」の一言もない店、なぜ潰れないのかもわからないような、そんな店に彼女は居たんだ。


5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/09/14(木) 01:05:29.31 :21UZx+iqO

ホコリとインクと煤けた本の独特の匂いが漂っていた。壁のように積み上げられた本はバラバラのようで理路整然としていて。ズボラなどではなく「成る可くしてこうして置かれた」ことを表していた。
一つ一つの本がしっかりとしていて、店の雰囲気も素晴らしくて、何もかも理想的だった。
僕がこの店に通い始めたのは、言うまでもない。


続きを読む