【モバマス時代小説】美城家御前試合 第二試合 南蛮祓魔師化猫退治行

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1: ◆Q/Ox.g8wNA:2017/07/17(月) 15:53:48.17 :ay9NUipTO

第一の試合に於いて、今西一刀流の剣士である双葉杏が、同門の幼馴染である諸星きらりを血刀をもって打斃した後、
血潮に塗れた美城家の試合場に、其れを覆い隠すかの様に新しい白砂が撒かれた。

その後、小姓たちによって綺麗に掃き清められた試合場は、最早普段と何の変わりも無く、
一見した所、何事も無かったかのような静謐に満ちていた。

しかし、居並ぶ列席者の顔色は、既に青を通り越して白、葬儀に並ぶ弔問者のそれである。

見た目だけは如何に取り繕おうと、場に流れる生臭い血潮と臓物の匂いに、年若の藩士の中には席を外し、
胃の腑の中身をぶち撒けに、外へ駆け出す者すらあった。


そんな異様な雰囲気が立ち込める中、試合場の中央へと進み出た美城家の家老が、第二試合の開始を告げた。

その直後、東西の陣幕から現れた二つの異形に、列席者たちは思わず目を見張ったのだった。

東の陣幕から現れたのは、当世流行らぬ黒の南蛮合羽を頭まで深々と覆い、顔すら見えぬ一人の人物である。

南蛮合羽の左腰が得物の形に盛り上がっている所を見ると、この人物が御前試合の参加者なのは間違い無いだろう。

それは良い。

少々小柄であるとは言え、その見た目は列席者たちの理解の範疇だったからである。

しかし、西の陣幕から運び込まれた「物」は、完全に列席者たちの理解を越えていた。


檻である。


白の麻布に覆われ中身を隠されてはいたが、四人の藩士が四方を抱える様にして持ち運んで来た際に布の端が捲れ、
檻の一部が衆目に曝され、その不気味な存在感を辺り一面に振り撒いていた。

檻とは如何なる事か。
御前試合に余りにそぐわぬその物体に、列席者たちはその中身に様々な想像を巡らせた。


罪人や物狂いの類か――


それならばまだ良い。まだ少なくとも人である。

例えば野の獣、蝦夷に住むという赤茶けた毛皮を持つ大熊か、はたまた大陸渡りの虎などの猛獣ならば如何にすべきか――

野獣の気儘な殺意が、居並ぶ自分達にも向けられるかもしれないのだ。

未知の恐怖に場がしぃん、と静まり返る。


その列席者達の戸惑う様子を、青白い顔に残薄な喜色を浮かべた顔で満足そうに見届けていた美城家の女当主が、
檻の傍で侍る近侍に向い、顎でくい、と檻を指し示した。

すぐさま深々と女当主に礼を返した近侍が、檻の布を勢いよく剥ぎ取った。

その瞬間、姿を現した檻の中の生き物を見て、会場のほぼ全ての人間が瞠目したのだった。


なんと檻に閉じ込められていたのは人間の女だったのである。


それも見目も麗しい年頃の少女で、薄汚れてはいるが豪華絢爛な遊女の衣を見に纏い、
その裾は大きく乱れ、肩を出し太腿も露わに放り出した、目の毒な事極まりない恰好で檻の隅に蹲っている。

少女は本来であれば、檻に閉じ込められていると言う異常な現状を差し引いたとしても、充分に人目を惹く顔立ちである。

しかし、その乱れた姿に欲情を覚えた列席者は一人たりとも居なかったであろう。

なぜなら彼女の髪はまるで獣の耳の様に逆立ち、口から覗く八重歯は牙の様にも見え、その爛々と光る金色の眼は
瞳孔が縦長に開き、見つめて来る人々総ての眼を呪いの籠った眼差しで見つめ返していたのだった。

その場に居並ぶ人々のほぼ総てが一目で理解した。 理解せざるを得なかった。

この娘は常人の類では無い――

化生の類である、と――



列席者の背筋に冷たいモノが走る中、家老からこの化生の娘に対する説明が始まった。

この者こそ過日、美城藩の藩士七名を殺害し、多くの者に手傷を負わせた、恐るべき猫の獣憑きの化け物である、と――


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