鷺沢文香「遣らずの雨」

2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/15(土) 23:22:41.71 ID:nGBjmZlt0

覚悟はしていたのだ。

プロデューサーさんにスカウトされアイドルになると決心したあの日から、私は想像の及ばない困難が待ち受ける世界に足を踏み入れたのだと。

演技もダンスも歌も経験はない。運動も人付き合いも、笑顔を見せることすら不得手である。そんな私がアイドルの道を目指したのだから、苦労しないわけがない。そう覚悟はしていた。

しかし、こんなことになるなんて聞いていなかった。

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3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/15(土) 23:23:41.26 ID:nGBjmZlt0

「文香ちゃん! 闘魂を燃やしていますかっ!? あのメラメラと燃える赤い夕陽のように! さあっ、足を前に動かして! 足を動かしたら腕も動かしましょう! 身体全体で走るのですっ!!」

「あ、あの......茜さん......私、そろそろ体力の限界が......。それと、今は昼下がりなので......夕陽は、見えない、かと......」

「何を言っているんですか文香ちゃんっ! 私たちの心に熱い魂が燃えている限り、夕陽はいつだってそこにあるのです!! 私が読んでいるマンガでは、登場人物たちが走りはじめるといつも夕陽が現れるので間違いありませんっ!」

「それは、表現の一種......あるいは、お約束と呼ばれるものでは......あの......」


4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/07/15(土) 23:24:30.38 ID:nGBjmZlt0

どうしてこんなことになってしまっているのか。

私は今、鉛のように重たい身体を引き摺りながら土手を走っている。同じく私の前を走っているのは事務所のアイドル、日野茜さん。

同じくといっても、呼吸を細切れにして地獄に落とされたカンダタのような面持ちでいる私とは対照的に、茜さんの元気はまるで無尽蔵である。汗こそかいているものの、疲れの色なんて一切滲ませない笑顔をその表情に浮かべ、陽気に走り続けていた。

本当に、どうしてこんなことに。


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