塩見周子「箱庭に降る雨」

2: ◆K5gei8GTyk 2017/05/19(金) 20:06:00.73 ID:5usAth110

「......ねえ、周子はん」

ソファから気の抜けた声がする。

「んん、なに?」

流し読みしていた小説から目線を外して、声のした方に返事をする。


「お腹、空かへん?」

「あー。そだね」

あいにく手元に時間のわかるものがなかったから、正確な時間まではわからない。

それでもどうやら、とうに昼は過ぎてしまったらしい。胃が力なく訴えかけているのを無視できなくなっていた。

「うち、お腹と背中がひっついてもうて、動かれへん」

顔だけをこちらに向けた彼女が、柔らかく笑う。

「軽くなにか作る?」

「せやねえ」


ずっと、雨が降り続けている。知覚できないほど大きな装置によって、巡り巡った雨が循環しているんじゃないかと思うほどに。

いつかすべてが沈んでしまうんじゃないかと心配になったこともあったけど、一向にその気配はない。

昼と夕方の中間地点で、あたしたちはふたりきりで生きているような気分になる。

スポンサーリンク


3: ◆K5gei8GTyk 2017/05/19(金) 20:06:38.52 ID:5usAth110

小説を畳む。栞なんて挟んでないけど、何度も何度も読み返した本だから、別に構わない。

立ち上がりながら尋ねた。

「しっかり食べたい?」

「うー、」

微かな難色。

「じゃあ、そうだな、適当にスープとかは?」

その表情がぱっと華やいだ。

「さっすが周子はん」

「はいはい」

その喜びようを見て、小さい子を持つ親の気持ちがなんとなくわかる気がした。


4: ◆K5gei8GTyk 2017/05/19(金) 20:07:27.67 ID:5usAth110

今日はコンソメのスープにしよう。

そう考えながらキッチンへ向かう。

そういえば今日はお昼を食べてない。よくあることだった。

お互いに食に対するプライオリティが高くないから、しばしば食べることを面倒がってしまう節があって、野菜室を開いたその中には、白菜に玉葱に人参。


今日も今日とて、料理を始める。


続きを読む