【モバマス】鷺沢文香「月の下の灰かぶり」




1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/09(月) 22:29:14.13 ID:htWIpEgT0

「......ここ、ですか」

告げられた住所を宛にたどり着いた建物を前に、改めて地図の示す場所と相違ないか確かめます。
二度三度と見直し、ビルの名前を確認し、目印代わりにと聞いていたコンビニが寸分たがわず存在するに至っては認めざるを得ないでしょう。
すでに日も落ち、街灯が灯る時間ですが、煌々と照す月明かりに映し出されるその姿、
さながら伏魔殿と言った雰囲気を漂わせています。

『アイドルプロダクション』

いまだ自身の気持ちも定まらない内に、私はたどりその場所に辿り着いてしまったようです。


「アイドルに興味はありませんか」

叔父の経営する古本屋で店番をする私に、唐突に投げ掛けられた言葉。
青天の霹靂、正にそう呼ぶにふさわしいでしょう。何しろ自分がスカウトを受けているのだと理解するまで優に10分以上はかかったのですから。

混乱する私に対し幾重にも言葉が重ねられる内にどうやら目の前の人物が本当にアイドル事務所のプロデューサーであること、
本心から私をアイドルとしてスカウトしたいと言っていることに得心がいきました。


2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/09(月) 22:30:12.58 ID:htWIpEgT0

......結局、その時は一旦お引き取り願ったわけですが。
アイドルに興味があるかと問われれば、正直に言ってあまりなかったでしょう。
少なくとも、彼の言葉を耳にするまでは。

勧誘の言葉が何故か心に引っ掛かり、眼前に鎮座する古書を改めて確認したもののやはりアイドルに関連するものは皆無。
ふと気が付けば、今まで見向きもしなかった雑誌を書店で手に取り、テレビに写る少女達を横目で見るようになっていました。

雑誌やテレビの中できらびやかな衣装を着飾り微笑む少女たち。
確かに私の目にも魅力的に映ります。
埃を被る古書と戯れる私とは無縁の世界に他なりません。

本当にそうなのか。
少なくとも、彼に言葉をかけられた時点で縁は出来ているのではないか。
だとしても、それを私が実践することは、また別の話であるはず。
しかし、何かが変わり、物語が始まろうとしているのではないか。
閉店時間も近い古書店の中で、何時もの様に掃除を行いながらも、そんな考えが頭をよぎります。
......思考の堂々巡りを続ける私の目に、一冊の本のタイトルが入ってきました。
古びた、そして、どこでも見かけるごくありふれた、その童話......


気が付けば、返事がほしいと言われていた一週間が過ぎようとしていました――


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